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「ハウルの動く城」2 [アニメ]




「ハウルの動く城」2  (2004)

何度も鑑賞させる事を強要する様な作品を私は好ましく思わない。
「ハウルの動く城」は決して、それではない。
随所で起こる不可解な構成は、説明不足で混乱する展開が多い事が
原因であり、鑑賞者にそれを連想させる隙を与えた結果だろう。
それは不明瞭な部分を鑑賞者に委ねてしまっているとも言える。

つまり、壮大なテーマ、緻密に張り巡らされた複線などを期待しないことだ。
買いかぶり過ぎない方が良い。そうした方が、もっと楽に鑑賞できるはずだ。
その時々の価値観、感受性を投影させ、様々な解釈を許容する作品。
非常に危ういラインに立ってはいるが、“傑作”だと思う。
 

 
~ 私見 ~
Q.  荒地の魔女と出会うまで

A. ソフィーの帽子:
帽子屋だから帽子が好き…だけでは無い。
ソフィーが帽子をかぶるのは、自分は可愛くないと思う引け目、
容姿へのコンプレックスからだろう。しかし、それだけでもない。

ソフィーの髪の色に注目したい。
母と妹の髪の色は金髪。とても美しい髪。2人共それを隠そうとせず
綺麗にセットしている。一方ソフィーの髪の色は紺色。
(理由に関して説明はないが、おそらく父親違いだろう。)
ソフィーは一人だけ違う髪の色、家族にたいして疎外感をもっていた。
自分の容姿を好きになれない理由はここから来ているのではないだろうか。
自尊心の弱さ、容姿への引け目 から帽子を深くかぶる習慣が付いたのだろう。

帽子屋を継ぐ(守る)事が自分の責任と考えているのも、父親方の
帽子屋だから、その責任は自分にあると考えていたのだろう。
ソフィーにとっての帽子(屋)は、唯一確かな存在証明でもあったのだ。
ソフィーの帽子と髪の色、これは物語を語る上で大きなキーワードとなる。



A. ソフィーの夢:
ソフィーは居場所を求めていた。幸せな生活。心穏やかに過ごせる場所。
ソフィーは帽子屋としての誇りは持っていたが、そこに置かれた待遇、状況
には満足していなかった。では、何をすれば良いのか?
それが分からず苦悩した毎日だった。

A. 魔法使いとの出会い:
兵隊と会話するソフィーの態度は反抗的だ。兵士の高圧的な態度もあるが、
ソフィーは戦争というもの、それに従事する者が大嫌いなのだろう。
憶測だが、ソフィーの父親は戦争で命をおとしたのではないだろうか?
(もちろん、戦争を嫌う理由は他にも沢山あるだろう。)

そこに、美少年が現れる。ソフィーはその美少年にひと目惚れしてしまう。
何者かに追われる少年と一緒に逃げ、2人で空を飛ぶ。
彼は、魔法使いだったのだ。退屈な毎日を過ごしていたソフィーには
恐怖心はなく、とても刺激的な体験だったのだ。



その後の妹との会話で、
「もしハウルだったら心臓を採られちゃうわよ」
「私、綺麗じゃないから…」
悲しそうなソフィー、まるで心臓を奪われたかったかの様な言い方だ。
この言葉から、魔法使い(ハウル)に恋したソフィーの心の様子がわかる。



ソフィーの相談に優しく対応する妹だが、何度も会話を止める男が現れる。
悪気はないのだが、ソフィーの会話を中断して全てに優しく対応する妹。
とても優しい妹だが、ソフィーにとって心を許せる程の関係ではないようだ。
その後、一人帽子屋に戻るソフィー。



手下を回収し、一部始終を知る“荒地の魔女“。

Q.  ハウルの城に向かうまで

A. 荒地の魔女の標的:
 荒地の魔女の標的は、ハウルの心臓。つまりハウルの心を支配し独占する事。
 その目的の為、ハウルの居場所を探る手がかりを探しに、ソフィーに遭いに来た。

A. 魔法をかけた理由:
 ソフィーがハウルに抱いた恋心を察した荒地の魔女だが、その
 感情(自由)を押し込めたソフィーの生き方に対する意地悪。
  支配される事を嫌い、孤独なまでに自我を通す荒地の魔女は
 そんなソフィーの生き方(自己犠牲)を憎らしく感じたのだ。

A. かけた魔法:
 荒地の魔女がソフィーにかけた魔法は、“心の姿に変える魔法“。
 “心を偽ったソフィー”が、その心の姿に変わってしまう。
 荒地の魔女からすれば、ソフィーに後悔させる事が目的なので、
 ソフィーの容姿が何に成るかなど、分からなかったし興味もなかっただろう。


 
A. 荒地の魔女の狙い:
 「その呪いは“人には言えない”、ハウルに宜しくね」と言い残し去ってゆく。
 これは、“心の姿に変える魔法”を解くヒントを与えてやった
 と言うより、「自分に正直な生き方をしないソフィー」への皮肉なのだろう。

 ソフィーがハウルを探すことは、荒地の魔女の手立てにもなる。
 「呪文を記した手紙」をソフィーのポケットに忍ばせたのも、その為だ。
 ハウルに恋し、ハウルも優しく接した女の子だから、出会う可能性は高い。
 ソフィーが魔法を解く事が出来るかまでは、気にしてはいなかっただろう。

 ハウルの力を利用し、権力を手に入れる事が、荒地の魔女の望み。
 権威への憧れ、願望から自分の力を他者に誇示したがっている荒地の魔女。
 荒地の魔女もまた、孤独に苦しんでいたのだ。

A. ソフィーが、老婆になった理由:
  ソフィーは何よりも誰よりも自由を望んでいた。しかし、自尊心の弱さ、
 母姉妹からの疎外感、劣等感に苦しんでいたのだろう。
 心を打ち明ける相手もおらず、何も出来ない自分。

 それらの不満を長女の自分は、家業(帽子屋)を継がなくては成らない
 という理由をつくり、責任感という言葉で自身を偽り、納得させようとしていた。

 母姉妹が派手に着飾り町に向かう姿を見送るソフィーに嫉妬心は窺えない。
 社交的な性格ではないと諦めてしまったソフィーは、嫉妬や妬みを感じる
 ことも止めてしまったのだろう。何も出来ないのだから考えても無駄…
  本当は、ソフィーは嫉妬もするし妬みもする普通の人間。
 ただ、自分の感情のまま行動する勇気がない、うぶな少女。

  ソフィーの人生は既に決まったようなもので、未来になんら期待する
 ものはなく、退屈な毎日の繰り返しでしかなかった。老いを待つ生活…
 そんな生活から抜け出したい願望を抑え続ける毎日。
 ソフィーの心は老を望んでさえいたのではないだろうか。

A. ソフィーが、家を出た理由:
  荒地の魔女に言われた「ハウルによろしく」も動機のひとつだろう。
 老婆に姿を変えてしまった後、容姿に対する悲観は薄く、むしろ家を
 出る口実が出来た事への喜びが上回っている様にも見える。

  そしてハウルに逢いに行く口実に「元の姿に戻る為」と言う大儀ができた。
 本心の「好きだから会いたい」を隠すには都合の良い理由だったのだ。
 ソフィーにとって愛の告白が出来ない理由は、容姿に自身が無いと言う理由
 以上に自分の感情と向き合う自信と勇気が無かったのだろう。
  時折みせる、若返るソフィー。感情(心)に左右されて容姿が変わる場面
 などは、それを物語っている。



Q.  サリマンと出会うまで

A. ソフィーの魔法を解く方法:
 ハウルに「呪文の記した手紙」を届けることに成功した後にも、
 荒地の魔女は、「私には解くことが出来ない魔法」と発言している。

 ハウルもソフィーに魔法がかけられている事を知りつつ、何もしない。
  “心の姿に変える魔法“な訳だから、ソフィー自身が解決(解く)
 するしかない魔法なのだろう。
 
 “ハウルに恋をしたソフィーが、それを認めハウルに伝えること。“
 これが、魔法を解く唯一の方法。



A. ハウルがソフィーにかけられた魔法を解かない理由:
  ハウルは、老婆になったソフィーが、前に出会った少女であることは知って
 いたはずだ。老婆になった原因も分かっていたのだろう。
 知らない振りをしなくてはならない理由。それは、ソフィーが心を開かなければ
 解けない魔法だから。ソフィーに対し、きっかけ作りはするが、最後の判断は
 ソフィーに委ねるしかなかった。
  ハウルも、ソフィーに愛されることを望んでいた様に見て取れる。
 ソフィーにかけられた魔法(容姿)を解く事より、それを望んでいたのだろう。

A. ソフィーが魔法を解くことにこだわらない理由:
 ソフィーは、ハウルに魔法を解いて欲しいと願っていない。
 ただの一度もハウルに解いて欲しいとソフィーは願っていない。

  ソフィーが荒地の魔女に対して「魔法を解いて!」と発言しているが
 本人は荒地の魔女が魔法を解いてくれない事は分かっていた。
 懇願する様子が見られない事から、それは観て取れる。

  ハウルに魔法を解いて貰ってしまうと、城にいる大儀が失われて
 しまうばかりか、実家(帽子屋)に戻らなくてはならなくなる。
 ソフィーは正直帽子屋なんて、実は家族なんてどうでもよかった。
 決して親不孝なのではなく、自分の幸せを望むしごく自然な感情だろう。

  ソフィーは、ハウルの側で“荒地の魔女に魔法を解いてもらえない困った状況”
 が今後も続くという舞台を望んでいたのだった。サリマンに会う為、宮殿に向かう途中
 犬(ハウル)の前で、荒地の魔女に対していまいち真剣みの無いポーズからも
 それは観て取れる。(犬はハウルではなかったのだが)



A. ソフィーがハウルに恋を打ち明けない理由:
  自分に自信が無い。そしてハウルの気持ちを知るのが怖いから。
 “ハウルが昔、女の子に振られた”という話を聞いたとき、ソフィーは泣きだしてしまう。
 これは、ソフィーがこれまで恋をしたことがなく、ハウルの気持ちを知ることを
 怖がるソフィーの心境がわかるシーンだ。

  城でのソフィーは、帽子屋での毎日と比べ明らかに楽しそうだ。
 軽快に働いている様子から、奉仕している“忍耐強いソフィー”ではなく
 自由を得て、楽しい日々を送っている様子が観て取れる。



 血は繋がっていないが、心の置ける場所(家族)を見つけたソフィーは嬉しかったのだ。
 ハウルの側で過ごせるなら、ソフィーは、このまま老婆の姿、掃除婦の生活でも
 構わないとさえ思っていたのではないだろうか。

 思い出の湿原で、ハウルが言う。
  「ソフィーは綺麗だよ」 
 しかしソフィーはその言葉に驚き、踏み出すことが出来ず、自ら心を閉ざしてしまう。
 やや若返っていた容姿が老婆に戻ってしまうのは、告白する勇気が無いソフィー自らが
 老婆に戻したと説明した方が良いだろう。



A. 戦争の位置づけ:
  戦争の理由は、王室付きの魔法使い サリマン の権威誇示と支配欲だろう。
 支配欲の対象、象徴が愛弟子ハウルであって戦争とは支配欲
 から来る物だと言うことを伝えたかったのだろう。

 サリマンの周りには、幼少時のハウルに似た召使(人形?)が沢山いる様子など、
 子離れできない親心(支配欲)、そこから逃げ出したハウルへの嫉妬が見て取れる。
 ハウルに固執する彼女(サリマン)もまた、自覚はなくとも孤独で寂しかったのだ。

A. ハウルが戦っている相手: 
 ソフィーと出会う前 と 出会った後 でその理由は異なる。
 この時点では、ハウルは自由の為に戦っていた。
 
  しかし、その自由とは、支配から “ 逃げる ” 事であって前向きな気持ちから
 来るものではない。「魔法学校入学でたてた誓いの書」を捨てないで
 取っている辺りも、逃避の正当化、サリマンへの後ろめたさが見て取れる。
  美しさ、容姿(髪の色)に自尊心を求める様子など、まだ大人になれない
 幼いハウルの倫理感が見て取れる。



 誰からも束縛(支配)されなない事が自由だとハウルは考えていた。
 その自由から生まれる孤独と不安。目的の見えない戦い。
 ソフィーと出会うまでのハウルは、そこから生まれる“恐怖”から逃げ続けていたのだ。
 “心”をなくして得た自由からは、孤立と理由の無い戦いしか生まれない、と言うこと。

A. ソフィーが宮殿に向かった理由:
 ハウルはサリマンが恐いという理由でソフィーに戦争に参加したくない旨を
 伝えに宮殿に向かうよう願う。
 ソフィーは、この“甘えた願い“に応じた訳だ。ハウルに戦いを止めさせたい
 思いから応じたのだが、そんな甘えたハウルに母性を感じたのだろう。



A. ソフィーとサリマンの関係:
 ソフィーは、相手の自由を奪う行為、支配欲に対して強い反抗心を持っている。
 それは、帽子屋での生活(母親)から生まれたものだろう。

 荒地の魔女への仕打ちを見てソフィーは過去の自分が置かれた境遇を見たのだ。
 同時に、ハウルを守る(愛する)感情が湧き上がる。
  愛するハウルの心を奪おうするサリマンにあからさまなに抗議するなど、
 昔の気弱な少女から成長したソフィーの様子がわかる。



  サリマンが杖を投げつけた相手は、ソフィーだ。椅子に突き刺さった杖は
 ソフィーを殺す目的。愛(支配)したいハウルの仇ソフィー。
 サリマンほどの魔法使いなら、ソフィーは魔法をかけられた少女であることも
 その少女がハウルを愛していることも見抜けたのだろう。
  嫁姑バトルの様だが、ソフィーを殺そうとする辺りは、サリマンの冷酷さが伝わる。

  ハウルの大切な人(ソフィー)を奪うことで、ハウルの心を奪おうとしたサリマン。
 ソフィーを守る為にサリマンに反抗した(する事が出来た)ハウル。
 「ありがとう、君がいたから逃出せたんだ」
 ハウルがソフィーに感謝したのは、ソフィーが魅せてくれたハウルの扱いに対する
 サリマンへの抗議と自分を愛してくれるソフィーの気持ちなのだ。



A. ソフィーと荒地の魔女の関係:
  ソフィーにとって荒地の魔女は、ハウルの心臓(支配)を狙う危険な相手だが、
 魔法をかけられたことに対しては、恨むどころか、内心感謝すらしているだろう。
 (帽子屋を出て、ハウルに逢うきっかけを作ってくれた事)
 現に荒地の魔女が劣れて、ハウルに対する脅威が無くなる程、
 ソフィーは荒地の魔女を大事に扱っている。

 ソフィーが帽子屋で受けていた家族の依存(精神的重圧)は、ソフィーを支配し
 利用するものであった。しかし、老いた荒地の魔女がソフィーに求めたものは
 ソフィーの愛情だった。老いへの共感と言うより、その自分を必要としてくれる
 感情に心地よい物を感じたのだろう。

 荒地の魔女は衰えていてもなお、若さ・美しさに憧れ、関心をしめすが、
 他者を支配しようとはしなかった。魔女は荒地ではなく、城(家族)を見つけた。
 居場所を見つけた魔女は、もう孤独ではなくなったのだ。



Q.  少年ハウルとの出会いまで

A. ハウルの戦う理由: 
 恐怖からの克服。自らの命を懸けても守る人(ソフィー)の存在。

 「僕はもう逃げない、守るものが出来たからね。君だ」
  
  サリマンの支配と戦うハウル。ハウルもまた、ソフィーと同じように自由を求めて
 戦っていたのだ。自由は自分で勝ち取る物。与えられる物ではない。
 サリマンからの自立の為、ハウルは戦っているのだ。



  黒い鳥や悪魔は“恐怖心”の象徴ではないだろうか。
 恐怖に屈する(負ける)と同化してしまう。恐怖に支配されてしまう。
 サリマンにとって、ハウルは永遠に子供。恐怖に勝つ(自立する)ことは出来ない。
 だからサリマンは「悪魔に成ってしまう」などと言葉を発したのだろう。
 (ただ、これはサリマンの支配欲が起因なのだが)

A. ソフィーの希望: 
 ハウルの気持ちを受けて、命を賭けて守っている城をソフィーは町から移動させる。
 自分の為に命を危険にさらすハウルを止めさせたい為だが、それだけではない。

 サリマンとの戦いを終わらせるには、ハウルがサリマンを支配するしかない。
 戦い続けるしかないのだ。ハウル一人でそれが出来るだろうか?
 そんな戦いを繰り返し、心臓のないハウルは本当に悪魔に変わってしまうのでは
 ないだろうか?ハウルの優しい心が無くなってしまうのでは?…ソフィーは心配する。
 「このままじゃ、ハウルが戻ってこれなくなっちゃう。」
 これは、純粋にハウルの身を心配するソフィーの言葉だろう。


 
 火の悪魔カルシファーを城から出し、ソフィーが城を壊したのも、
 その後ハウルの元へ向かおうとしたのも、ハウルに戦う事を止めさせようとして
 とった行動なのだ。ソフィーはハウルとの平和な生活を願っている。
 「ハウルは、弱虫がいいの。」
 ソフィーの言ったこの言葉は、まさにこれを表している。

 ソフィーはハウルとの、そしてマルクルとカルシファー、荒地の魔女との
 幸せな家庭を望んでいたのだ。
 母親がソフィーを尋ねた際、ソフィーは母親の申し出を断る。
 (サリマンによる差し金だが、ソフィーはそれを知らない)
 ソフィーの居場所。ソフィーには守るべき家族ができたのだ。
 
 荒地の魔女は、ハウルの心臓を見つけ素手で掴んでしまう。
 美しい物への執着からとった行動だろう。
 炎に包まれた荒地の魔女だが、心臓を離そうとしない。
 ソフィーは、水をかけて荒地の魔女を助けるのだが、カルシファーの炎は
 消えかかってしまう。
 カルシファーを犠牲にするつもりなどなく、単に荒地の魔女を助けたい
 一心からとった行動なのだろう。



 ハウルを失ったと想い、ソフィーは泣き出してしまう。
 すると、指輪は光り、ハウルの居る方向を指した。



Q.  ハウルに愛を伝えるまで  

A. 少年ハウルとカルシファーの契約:
  思い出の湿原で、少年ハウルは空から落ちる星の子を助ける。
 消滅することを恐れる星の子に、ハウルは心臓を与えることで
 火の悪魔カルシファーが生まれる。
 カルシファーは、心臓と引き換えにハウルに忠誠を誓う。

 この契約はハウルとカルシファーが、話す事も、解約する事も出来ない。
  その後カルシファーは、自由を求め、契約の解除を望み続ける。
 それは、ハウルの心の願いでもあったのだ。
 ハウルは心(心臓)を失うことで、恐怖を引き金に自分の魔力(怪物)
 に支配される危険を孕んでしまう。



A. 何故「未来で待ってて」なのか?:
 何度も述べたが、ソフィーは自ら告白する勇気も自信もない。
 それならまだ老婆として一緒に居たいと願っているほどだ。
 もし振られたら…未来の可能性を捨てた牢人に戻ってしまう。
 ソフィーにとって、それは体の若さと引き換えにしてでも避けたい事だった。

 しかし、ハウルを失う事で、心を偽った事。
 ハウルに気持ちを伝えなかった自分に後悔するソフィー。
 魔法のドアによって過去の世界に入り込んだソフィーが見たものは、
 ハウルとカルシファーが契約をする瞬間だった。
 ハウルへの愛を隠さないソフィーは、「未来でまってて」と伝える。

 ソフィーに迷いはなくなった。ソフィーにかけられた魔法は意味を無くす。
 ソフィーの姿(心)は、もう老婆ではなくなったのだ。魔法は解けたのだ。



 現代に戻ってきたソフィーの前に、ハウルが待っていた。
 ソフィーは、契約の秘密を理解し、ハウルへの愛と契約を解く事を伝える。

A. 荒地の魔女の心:
  大事そうにハウルの心臓(カルシファー)を抱える荒地の魔女に
 ソフィーは優しく説く。愛する者から強引に奪い取る必要など無い。
 「仕方ないね。大事にしてね。」と心臓をソフィーに渡す荒地の魔女。
 ハウルへの愛を隠さないソフィーを荒地の魔女は認めたのだ。

 カルシファーの命を気にかけるソフィー。カルシファーも契約の解除を受け入れる。
 そしてハウルの心臓(心)はハウルの元へ、カルシファーは自由を取り戻した。



A. 「馬鹿げた戦争を終わらせましょう」の一言で終結した戦争:
  心を取り戻したハウルをサリマンが恐怖で支配することはもう出来ない。  
 戦争を利用してハウルを追い詰める事が出来なくなったのだ。
 隣の国の王子(カブ)も戦争を止める動きを見せており、もう戦争の継続が困難だ。
 「ハッピーエンドってわけね。」と強がり、嫉妬を隠せないサリマン。
  サリマンがハウルを大人と認めたという “ ポーズ ” での言葉だろう。
 これはあくまでポーズ。 サリマンが心からハウルの自立を認めていない事は、
 ハウル似の召使を側に置いている点や犬を呼び戻さない点からも見て取れる。
 ただ、サリマンも人の子だという事、子離れできない親。寂しいのだ。

 あのサリマンの軽い終戦宣言は、負けず嫌いから来た強がりであり、支配欲が
 劣れた訳でも、反戦家になった訳でもなく、他国への支配は止めないだろう。
 総理大臣と参謀長を呼びつける態度など、体面を保つことに躍起なサリマンが窺える。
 だからこそ、あんないい加減な言い方をして誤魔化したのだろう。
 サリマンはまだ、ハウルを手放すつもりはないのだ。

A. ソフィーとカルシファー、マルクルの関係:
 ソフィーと初対面の時からあれだけ自由を望み、契約の秘密を
 見つけることを懇願したカルシファーだが、ソフィーの元に戻ってくる。
 ハウルに心臓を戻す時に見せた優しさが、カルシファーの心を
 うったのだろう。カルシファーもソフィーの家族となることを望んだのだった。



 同じく、マルクルの存在は、この作品に家族と言うテーマと、ソフィーの
 理想とする母親像とはどの様なものなのかを魅せてくれた。
 マルクルとソフィーのシーンはどれも愛情に満ちた良い作りになっている。

A. カルシファーとソフィーの契約:
 ハウルの心臓を失ったカルシファーは何故消滅しなかったのか?
 「ソフィーなら大丈夫」の台詞とソフィーの白髪に鍵がある。
 カルシファーは、ソフィーの髪と交換に契約を交わしており
 契約を失った訳ではなかったのだ。
 つまり、ソフィーとの契約のお陰で、炎(ハウルの心臓)が消滅しなかった。

 魔法のドアで、少年ハウルとカルシファーが契約を交わす姿を見せたのも、
 ソフィーのハウルを助けたいとの願いをカルシファーが叶えたのだろう。

 そして魔法が解けた後もソフィーの髪の毛だけは、白髪のまま
 残る結果となった。 しかし、意識を戻したハウルがまず褒めたのが
 ソフィーの髪だった。ソフィーにとって、髪の色を褒められることが、
 どれだけ重要な意味を持つかは、先に述べた。
 「ソフィーの髪、星の光りに染まっているね、綺麗だよ。」
 なんて素晴らしい言葉だろう。



A. カブの正体:
 隣国の王子。推測だが、平和を好む王子をサリマンがカカシに変えたのだろう。
 ソフィーに救われたカブ。最後にカブはソフィーに求婚する。
 しかし、ソフィーはハウルを選んだ。求められるまま応じた訳ではなく
 ソフィーが自ら選択した相手がハウルだったのだ。
 それを受け、カブは紳士的に接しその場を去る。



 しかし、戦争を終わらせてまたソフィーの元に戻る事をカブは伝える。
 ただのハッピーエンドで終わらせない辺りが、人生経験豊かな監督の
 遊び心なのだろう。
 
 
~ おわり ~
 
備考:倍賞千恵子の声に関して好みが分かれるだろうが、以上の説明を踏まえると
   けして演技力不足などでは無いことが分かる。
   木村達也にしても、悪くない、上等ではないか。しいていえば、番宣のCMに
   リアルで出るなよ!!と言いたい。養老は何がしたかったのかも分からんし。
   あれで説教臭い映画と誤解、反戦なんて深読みが生まれたのではないか?
   もちろん、美輪は別物。アニメよりリアルの方がよっぽど神秘的だ。
 

加筆:作品のあらすじを書くことは、好きではないし、作品紹介程度でおさめるスタンス
    を理想としていたのだが、この「ハウルの動く城」にたいする評価に、
    “意味がわからない”からくる酷評が多い事を悲しく思い、私なりの私見を書いた次第。
    もちろん、娯楽作品である以上、鑑賞者を混乱させるのは良い判断とは言えない。
    私の“私見”を読む事で、より混乱する方もおられるかもしれない。

    しかし、私は鑑賞者の感受性を信じたこの作品に敬意を表したかったのだ。 
    このジブリアニメ、いや宮崎駿作品にこれまでに体験した事の無い
    凄みを感じてしまったのだ。 「とんでもない事しやがったな監督っ!」…みたいな。

    このアニメ作品にたいする、幾つかの解説やレビューを読んだが、
    暗号文のような感想や、途轍もない深読みからくるストーリー以上の説明書、
    ストーリーを一切無視した隠喩の羅列、一部分のみを完全攻略しその他無視、
    陳腐な賞賛と意味不明な解説、9割の風景説明の後に「面白かった」の絞め言葉、
    …そんなレビューの横行に我慢できなかった、と言うのが本音かもしれない。
    もちろん批判はあって当然だし、「よくわからない」という感想も大切な意見だ。

    だた、これだけは言いたい。
    宮崎駿は死んでいない。むしろ、信じられないスピードで進化している。  
    (2006/7/24)




ハウルの動く城

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  • 発売日: 2005/11/16
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アブダラと空飛ぶ絨毯―ハウルの動く城〈2〉

アブダラと空飛ぶ絨毯―ハウルの動く城〈2〉

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  • 出版社/メーカー: 徳間書店
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